01. 金色アジタート


また来ちまった。
もう二度と来ねェって決めてたのに。
閉店時間のすぎたカフェのカウンターで俺は深々とため息をついた。
「どうしたの、キャスケット。悩み事なら聞くよ?」
「…‥まさにお前が原因だよ」
「知ってる」
カウンターの向こうからセピアがにっこりと笑い、目の前におかれるハヤシライス
「おまちどおさま」
つい、うまそうと口からこぼれた。

「好きな奴がいるって前に言ったよなァ?」
「うん、きいたよ」
「じゃあ俺の事は諦めろよ」
「い、や」
頬杖をついたセピアにカウンターごしに見つめられている。
「あんま見んな、食いづらい」
「しょうがないでしょ、好きなんだから」
眉間にしわをよせた俺にも動じないで、ひらりとかわすようにめちゃくちゃなことをいってのけやがる。
そしてまた微笑んだ。
「ほんと俺のどこがいいんだよ」

ため息と混ざって本音がおちた。
普通なら片思いしているお前が苦しむはずだろう?
なのになんで俺がこんな思いしなきゃなんねェんだ
そんな風に心底幸せそうに俺を見て、お前は傷ついたりしねェのか
報わないって思わねェのかよ

「…‥キャスケット、ねぇ大丈夫?」 黙り込んだ俺を覗きこむように首を傾げるセピア。
俺にしては丁寧にスプーンを置いた。
「いい加減諦めてくれ。俺はモンスターなんだぞ」
「知ってるってば」
「知ってんのと分かってんのは違う。
俺はお前を冗談抜きで喰っちまうかもしれねェんだぞ!?
怖くねェのかよ」

一拍おいてセピアは綺麗に笑った
「それが、何?」
微笑みながらも見つめ返される目線の強さに思わずたじろいだ。
「…‥何、って、」
「大丈夫。あたしはあんたがあたしを喰ったりしないのを分かってる
だから全然怖くない」

はっとした
セピアの金の両目は間違いなく愛しい男をみるそれだった
何度も思いの届かない相手の目に見た
俺に向けられることのない、

何も言えないでいる俺の唇にやわらかいものが押しつけられた。
セピアがカウンターの向こうで歯を見せて笑う。あたしは絶対に諦めないっていう、強い笑い。

「あんたは優しい、だから好き。
大好きだよ、キャスケット」


言葉が出ない自分を落ちつかせるためのため息は
あまりにもなさけなく、細く、震えているようにさえ思えた。



睡蓮さん宅キャスケットさんお借りしました。
うちのセピアの片思い公認の時に喜びのあまり書いたもの。