やけどするほど


「あつあつだな」
カウンター席に座る凜子さんの前にホットケーキとコーヒーを並べた。
おいしそー、と呟く目元がとろける。
いつもの男勝りの口調や行動も、こういう女性らしい仕草も
どちらもこの人らしいと思う。
今日は休みでがらんとした店内。
静かすぎる気もしてお気に入りの曲をかけた。
皿拭きを再開すれば
ゆるやかな音に次第に気分ものってくる。
さて、今日はなにをしようか。

「ねぇ、ツユキ」
手を止めて凜子さんをみた。
「どうしました?」
「お前さ、好きな人いる?」
「え、?」
突然のことに一瞬思考が停止して、再び動きだした心臓がだんだんと加速していく。
「やっぱラブレター担当としては気になるからさ。で、どうなの。いるだろ絶対。あ、もしかして…‥」
きらりと輝く目。
「いっぱいいたりして」 「
な、なんですかいっぱいって!1人だけですよ!!」
あ、しまった。
凜子さんの顔いっぱいに広がるにやにや笑い。
「1人いるんだー」
こうなったら、もうどんなに必死に隠しても無駄だ。
何か言うまで問い詰められるんだろう。
自分の失敗に嫌気がさしながらも俺は覚悟を決めた。
「何が聞きたいんですか」
色々聞かれても適当にぼかして話せばいい。
面識は無いはずで、きっと誰のことか分からないだろうから。
ラブレター担当が少し悩んだ後、俺への攻撃をはじめた。
「ん、じゃあ・・・その人ってかわいい?」
「かわいいっていうか、俺がかわいがられてるっていうか」
「え、もしかして年上かよ!」
頷く俺。頬が熱い。
「やるなお前。まぁ顔も可愛いし働き者だし不思議でもないか」
うんうんと納得して顔を覗き込んでくる凜子さんから逃げたくて背を向けた。
かわいいなぁ、なんていわれたって無視。
「上手くいってんの?」
「べ、別に付き合っているわけではないので」
「あら、じゃ片思い?」
「そうでもなくて・・・」
うーん複雑。
凜子さんから零れたその言葉ににじむ興味。
明らかに楽しんでる・・・。
俺は早くこの尋問が終わるよう祈って薄くため息をついた。
「でもさ、ツユキ、耳まで赤くしちゃってさ。そんなにその人のこと好きなの?」
ふふ、と笑う声。
「好きなんだろ」
「好きって言ってよ、俺のこと」
「もう!うるさいですよ!!好きですよ、大好きなんです!!」
言ってしまってから声の大きさにはっとする。
凜子さんを見るとにやりと笑って両手で指をさした。
つられて顔を向けると
わーツユキ人前でそんな熱烈に!俺ちょっと恥ずかしーけどツユキからそういう言葉なかなか聞けないから新鮮っていうかすげー嬉しいっていうか、
やっぱ俺もツユキのことす、

鈍い音がして気が付けば、カウンターに突っ伏して動かない蜂散さんの後頭部。
右手にはフライパンで
あぁ、まったく。
顔の熱さでとけそうだ!!

頬杖をついた凜子さんが、あつあつだなぁ、と笑うのが遠くで聞こえた。


睡蓮さん宅蜂散さんお借りしました。