05


「お母さん、これ まだぁ?」
窓際のテーブル席から響く女の子の焦れた声。
手にはずっとティーパックの紐が握られている。
たしなめる母親の声ははっきりとはきこえない。
でも女の子に向けられたささやきのやわらかさと優しげな目線を感じて、俺は思わず微笑んだ。

ふと耳の奥で昔の自分の幼い声が響いた。
「セピアさん これ まだですか?」
たどたどしい声に応えるやわらかな響き。
何を言っているかはきこえない。
でも、そのささやきは確かにやわらかくて優しくて、微笑んだ口元とは逆に、じわり、目頭が熱くなった。