04


「愛してる」
ふいに耳元で囁かれた一言に、言葉が詰まった。
蜂散さんが返事を待っているのはわかったけれど、
やっぱり、俺は、俯くしかできない。

寄せられた指が、熱くなった頬を、そっとなぞっていく。
指先が優しい。気持ちよさに目を閉じた。
何にもうまくできない俺を、何も言わないで許してくれる。

指が離れていく感覚に顔を上げると、蜂散さんは窓の外に目を向けていた。
口元に小さな笑みを残して、夕日の色に染まる頬。
こんなに近くても、見つめることしかできない横顔は、今も、ずっと、苦しいばかりで。
愛を口にできない俺は、まだ、恋からも抜け出せないまま。
「愛よりもよっぽど、恋の方がつらいよなァ」
俺の肩を抱き寄せながら蜂散さんは零して、
その言葉に体がじんと痺れて、また何も言えなくなってしまった俺に
ごめんなァ、
とさらに続けるものだから、首を横にふって、
俺は、蜂散さんの肩に頭をあずけた。