03
手作りのクッキーをかじりながら、ソファの隣をぽんぽんと叩いて座るように促すと、
洗いものを終えたばかりのツユキは、エプロンをしたまま大人しくそこに座った。
「なァ、あの電話の後キャスケットと会ったりした?」
「はい。2回くらい」
「・・・え?」
もうひとつ、口に運ぼうとしていたクッキーが転がり落ちた。
あ、と目で追うツユキの両肩を掴んで、無理矢理目を合わせる。あまりの強引さに驚いて、でも不思議そうにツユキは俺を見返した。
「俺、言ったよな。キャシーに近づかないでって」
一拍おいたあと、俺の言いたいことがやっと分かったらしいツユキは、困ったような表情を浮かべた。
「でも、来てくださったのに帰れなんて、言えるわけないじゃないですか」
戸惑う声。当然だ。
ツユキからしたら、俺の言ってることなんて、めちゃくちゃで、自分勝手で。
でも、奪われたくない。奪われたら取り戻せない。そればかりが俺をせき立てて、焦らせる。
「あいつはお前の事、狙ってるかもしれないんだぞ。悪けりゃ襲われるかも、」
「キャスケットさんはそんな人じゃありません!」
キャシーは信用できるのに、俺は信用できねェのかよ。
もどかしさに、思わず、そんな安いドラマみたいな言葉が口をついて出そうになる。
「お前全然分かってねェ!キャスケットとだったら、気付いたら浮気してたみたいな、そんな風になっちまうかも、」
必死な俺の言葉を遮るみたいに、
ツユキは静かにぽつりと零した。
「もしそうだったとしても」
膝の上で、エプロンをきゅっと握りしめる手。下を向いているせいで、どんな顔をしているかはわからない。
「キャスケットさんの心の中が、もし、そうだったとしても。蜂散さんは俺のこと、信用してなさすぎです」
顔を上げたツユキが正面から俺を見た。
引き結んだ口とつり上がった眉とは反対に、目だけは泣きそうで。
「俺は、蜂散さんが好きなのに」
小さく唇をかんで、そっぽをむくように俯いて、浮気するよゆうなんて、ない、のに
消え入りそうな声で呟かれてしまえば、
俺はもう、ツユキの強張った体を強く掻き抱くしかなくて、「ごめん」と言うのが精一杯だった。