神様の隣の瞳
「それで、ハチコとは上手くいってるんでしょ」
いきなり切り出された言葉に
「え、っと?」
首をかしげてしまう俺に、鯉壱さんは含み笑い。
「ツユキがそう思ってなくても、きっと上手くいってるよ。だってハチコのくせに幸せそうだもん」
ありえないよねー、ハチコのくせに。
カウンターで足をぶらぶらさせながらミルクティーを飲む鯉壱さんを直視出来なくて俯く。
喉の奥に引っかかってきた疑問が今もまた、ふと顔を出した。
ずっと蜂散さんに聞きたくて、でもきっと聞いちゃいけなくて、聞いてこなかったこと。
「ね、ツユキ」
「・・・は、はい」
「何か悩んでる?」
「え?」
「なんかね、そんな感じ」
くるくるとミルクティーをかき回すこの人は
時々不思議。
見えているものの更に向こうの見えないものを見ている、気がする。
この感覚があの疑問を口に出す手助けをしたんだろう。
「…あ、あの。こんなこと聞いていいのか分からないんですけど、」
俺の雰囲気に急に真面目な顔で頷く鯉壱さん。
「俺、鯉壱さんと蜂散さんの関係の邪魔してるんじゃないかって、いつも、その…」
きょとんとして、なーんだと笑った。
「もう!そんな怖い顔するからさ、もうミルクティー作ってくれないとかそういう怖い話かと思っちゃった」
両手で丁寧にソーサーにカップを戻し、鯉壱さんは頬杖をついてカウンターの向こうから俺を見つめた。
左右色の違う瞳に映る俺。
綺麗すぎて、吸い込まれそう。
少し、恐い。
ゆっくりとしたまばたきの後視線が外される。
「多分ね、ツユキが思ってるような関係じゃないと思うよ僕たち」
ミルクティーを口にして、遠くに微笑んだ。
「僕とハチコはミルクと紅茶だけど、ハチコとツユキは紅茶とカップだから」
うん、そんな感じだから。
そう言って、鯉壱さんはケーキの最後の一口を大切そう口に入れてにっこり笑った。
「だからね、ツユキ。君はは自分がしたいようにすればいいんだよ」
手招きされて出来るだけ近付くと、椅子に膝立ちになった鯉壱さんに優しく頭を撫でられた。
「きっとね、それでみんな幸せになれるよ!」
にこにこしたこの人がこんなふうに言うのなら、きっとそうなんだろう。
そんな感じ、がするように思えた。